イースターエッグの思い出
小さい頃、母の知り合いでツブラヤのおばさんという人がいた。
実家は自営業を営んでおり、その職場でよく見かけたので、お客さんだったのかもしれない。
おばさんは気さくで関西味のある人だった。映画「カメラを止めるな」に出てたどんぐりさんみたいな笑顔の人。
小さい頃の私にはおばさんが荒っぽい人に見えて、少し敬遠してた。
しかしおばさんはある時、保育園の手提げバッグや上靴袋を作ってくれた。
赤いキルティング生地に控えめな小さな柄がついていて、ひらがなの形をしたボタンで私の下の名前を縫い付けてくれていた。赤は当時私の好きだった色だ。
それがすごくうれしくて、特に名前ボタンはお気に入りだった。
確かお子さんがもう大きい男の子ばかりで、女の子のもの作れておばちゃんうれしいわ!とか言ってくれた気がする。
また別の時には、イースターエッグを母がもらってきてくれた。おばさんはクリスチャンだったそうだ。
卵はいろんな形の葉っぱで色とりどりに染め抜いてあった。そんなハイカラですてきなものは見たことがなくて、私にとって全く知らなかった世界から来たきらきらの宝物だった。
それから中高生のころだったか、おばさんが亡くなったと聞いた。
ガンだった。確か、女性特有のガン。
お葬式はキリスト教式でやってあげるんだろうかとかどうとか、両親が話してたのを覚えてる。母は「ツブラヤのおばさん大好きだったのに」って呟いてた。
中高時代の通学バスの窓から、マリア像が見える所がある。広い庭の真ん中にマリア像のあるお家。
ぼんやりとした記憶ではあの辺がおばさんちだったのかなあ。
キリスト教がらみでもう一つ印象深いこと。
小学校の高学年の時、兄弟がたくさんいてフレンドリーで運動神経抜群のユカコちゃんに連れられて教会に行った。
それほど仲良く遊んだ記憶もないし、家も遠いのに何故そんな流れになったのか、とにかく日曜学校というのに一緒に行った。ちなみに一般的なキリスト教の教会で、勧誘とかそういうのではない。
子どもは子どもだけの部屋で遊んで、そのあとお祈り。
教会では子ども向けの英会話教室もやっているようで、Join us!的な貼り紙があった。
来てくれた記念にと、ト音記号の形のクリップをおみやげにもらった。
お祈りの時間は、大人も子供も礼拝堂でお話を聞いたあと聖歌を歌う流れに。でも歌なんて全然知らないし、どうしたらいいかわかんなくて私はずっと俯いてた。ふと顔を上げたら下向いて座ってるのは私だけ。みんな立って歌ってた。
とても恥ずかしくなったのだけど今更立ち上がることもできず、居心地が悪いままだった。
これは結構ショッキングな出来事だった。こんなに近くで大勢の人が立ったり座ったりしている中、なーんにも気付かなかった自分がまず信じられなかった。
それに、立つんだよ、とか誰も声を掛けて来なかったのにも驚いた。手取り足取り、ああしようね・こうするんだよ、と言われるものだと思っていたからか。まあ、別に歌うかどうかなんて自由だしね。
ちょっと外の世界に出た出来事だったなあ。